農林大臣賞も受賞している、職人の中の職人。昆布選びから道具の準備まで一貫して自分で行う。白おぼろの最高級「白波」、白とろろの「松の雪」、黒おぼろの「千代の松」。全てが熟練した技術の結集であり、まさに芸術品である。

おぼろ・とろろ昆布の作業は、昆布選びから商品ができるまで全て職人の南さんが行う。誰にも手出しができない聖域である。
南さんは戦後間もなくからこの仕事をしている。もう60年以上だ。それでも「悪いんと違うかな(どうかな)?」と気にして削っている。もう半世紀以上たって、 農林大臣賞を受賞しているというのにだ。
昆布選びが終わったあと、酢につけこむ「つけ前」をし、酢を吸い上げた頃合をみてしわを伸ばしながら巻いていく。黒い部分「さらえ」を削りその後、乾燥 度合いを見て晴れた日に「陰干し」する。この時の微妙な乾燥度合いが重要で南さんのこだわりでもある。
ここで道具だ。「道具の形(かた)が悪いと一切だめ」と南さんは言う。それゆえにこの道具の準備はことさら神経を使う。
研いだ独特の庖丁に刃先をかえして仕上げる技「アキタ」を引く。この引き具合は昆布の質やその日の天候によっても変わるという。とろろ昆布のような細い繊維を削り出す場合は、そのあとその刃に鋸(のこぎり)のように260もの目を入れる「目打ち」をする。この瞬間は見ている私たちも息ができないくらいの緊張感がその場に漂う。
「陰干し」された昆布を左足を曲げ、右足で昆布の端をとめてその庖丁で削り出す。それは、あしが短く白く細やかで本当に雪のようである。南さんの削った白とろろの最上級品「松の雪」だ。それを口にすると舌の上でとろけてしまう。
しばらくすると南さんが道具を変える。先程の庖丁とは少し違い、庖丁を薄く研ぎすきし、まっすぐとしている。「おぼろ昆布」を削るのだ。「おぼろはとろろを削る技術よりさらに難しい」と聞いている。今度は、透きとおるような薄地のあしの長い「おぼろ昆布」である。南さんの削る「白波」はまさに芸術品である。
「職人はいっぱいおるけどな。みんな同じようにやってても違うんや。僕は僕のやり方がある。そうして半世紀が過ぎた。それでも「どうかな?」。満足してはいないんよ」
南さんの目は、やさしくそれでいて好奇心いっぱいの少年のようだった。




